歯の病気
 
  ●口腔の病気の見つけ方 _____________
 
 口腔内には沢山の病気がありますが、動物を漫然と見ているとわからないことが多いものです。注意深く外貌や食事中のしぐさを観察したり、口の中を観察することで、これまで気づかなかった多くの口腔内疾患を発見することができます。次のような症状がある場合は、歯や口腔内になんらかの病気がある可能性があります。 

○外貌(前や横から顔を見てみる)
・顔が左右不対称に腫れている
・上下顎の大きさに不対称がある
・口唇(くちびる)が腫れている
・片側性に鼻出血や鼻汁が見られる
・口角(口の両脇)や口唇がよごれている
・顔の皮膚や顎の皮膚に傷ができて排膿している

○口腔内の観察(口唇を軽くめくり口腔内を観察する)
・歯石が付着している
・歯の形が異常である(破折(はせつ)など)
・歯並びがおかしい(不正咬合)
・出血が見られる(炎症や潰瘍など)
・粘膜が赤くなっている(炎症)
・腫瘤(できもの)がある(腫瘍など)

○食事の時に見られる症状 ・涎(よだれ)が多い
・右か左のどちらか一方で食べる
・食べ物をこぼすようになった
・食べる途中で急に奇声をあげる
・水を飲むときに急に奇声をあげる
・異常に前足で口の周りをぬぐう
・食事の途中でやめてしまう

○触診(口の周りを触ってみる)
・口の周りを触られるのを極端にいやがる
・口を開けさせない
・口の周りを触っていると急に奇声をあげる
・下顎のリンパ節や唾液腺が大きくなっている

○打診(唇の上から指で歯を軽くたたいてみる)
・皮膚の上から歯の上あたりを軽くたたくといやがる
・顎をガチガチさせる

○臭診(口の周りのにおいを嗅いでみる)
・近くに寄っただけで口臭がする
・口腔の診察時に口臭がする
・口唇を触った手に異常な臭いが付着する

○歯磨きの指導
 歯磨きを行うと、口腔内の疾患にも早く気づくことができ、なんといっても口腔内の病気で最も多い歯周病の発生を予防することができますので、大変有意義なものとなります。いきなり歯磨きといっても、なかなか急にはできないことが多く、色々な工夫をしなければなりません。少しずつ慣れさせることが大切で、その一つの方法を示しておきました。歯磨きは若い時期から始めると比較的容易にできます。

・鼻先と下顎をつかんで軽く口を閉じる練習をする。
・口を閉じたまま、横から指を入れ臼歯部(おくば)をさわってみる。
・指にガーゼを巻き歯と歯肉をなでる。
・歯磨剤をガーゼに付けてなでる。
・柔らかい歯ブラシに歯磨剤をつけ、軽くブラッシングしてみる(上顎犬歯と臼歯)
・上顎頬側面(歯の外側の面)ができたら切歯部(まえば)を磨いてみる
・頬側面(外側の面)ができたら口を開けて舌側面(歯の内側の面)を行う
・できにくい場合は上顎の犬歯と第4前臼歯(おくの一番大きい歯)の部分だけでも行う。
  このページのトップへ
●口腔内の病気の種類 _________________
 

犬や猫の口腔内に見られる病気の種類を示します。

1. 奇形、遺伝的要因:
口唇裂・口蓋裂、歯列の異常(下顎突症、上顎前突)、歯の奇形などがあります。口蓋裂は産まれてすぐにわかりますが、歯の奇形は歯が萌出する頃にわかるようになります。顎の長さや大きさの異常は遺伝的要因の関与が疑われます。      
2. 発育の期の異常 :
歯列異常(乳歯の晩期残存)、萌出異常(埋伏歯)などがあり、歯の萌出する時期に異常が分かります。乳歯と永久歯の交代がスムーズに起こらず乳歯がいつまでも残ることで起こる歯列異常が多く見られます。
3. 外傷:
軟組織の外傷(口唇、舌)、歯の外傷(歯冠・歯根の破折、脱臼)、顎骨骨折などがあります。一番多いのは歯の破折です。交通事故だけでなく、喧嘩や落下、フリスビーなどで、また、最近では硬いおやつを食べて破折することが多くなってきています。歯並びの異常で口腔内の軟部組織を損傷することもみられます。
4.炎症:
歯周疾患;歯周炎(辺縁性歯周炎、根尖性歯周炎)、歯の炎症性疾患(歯髄炎、歯髄壊死、根尖病巣、う蝕)、また、顎骨の炎症(骨髄炎、上顎洞炎)、粘膜の炎症(歯肉・口蓋・口腔粘膜の炎症、口唇炎、舌炎、扁桃炎)などがあります。歯周疾患は口腔内の疾患のうち最も発生頻度の多い疾患で3歳以上の犬や猫の80−90%以上が罹患しているともいわれています。その他、歯の外側は異常がなくても歯髄炎や根尖病巣で痛みの症状があることも少なくありません。猫の慢性歯肉口内炎など難治性の疾患では、歯がある限り口腔内の炎症が続くこともあります。
5.嚢胞:
歯原性嚢胞(歯根嚢胞、含歯性嚢胞)、粘液嚢胞(粘液瘤)などがあります。見た目は歯肉や口腔粘膜が腫れて色が変わったりすることが多く、痛みを伴う場合もあります。
6.腫瘍:
歯原性腫瘍(良性、悪性)と非歯原性腫瘍(良性、悪性)があります。同じような腫瘤にみえても、ただ炎症でできた場合もあるし腫瘍のこともあります。また、同じようなできものでも良性のものと悪性のものがあり、腫瘤の性質や種類の判定には組織検査が必要です。

  このページのトップへ
●主な症例の写真 ____________
 
リンクをクリックすると、詳細ページにジャンプします。
1.口蓋裂   11.眼窩下膿瘍
2.不正咬合:予防矯正:乳歯抜歯   12.口鼻瘻管
3.不正咬合:歯冠短縮   13.破折:修復治療
4.不正咬合:永久歯抜歯   14.破折:断髄治療
5.不正咬合:外科的矯正   15.破折:抜髄治療
6.不正咬合:矯正   16.口腔内腫瘤
7.埋伏歯:外科的矯正   17.口腔内腫瘍
8.埋伏歯:歯肉切除   18.猫歯周病
9.埋伏歯:嚢胞   19.歯頸部吸収病巣
10.歯周病   20.歯肉口内炎

このページのトップへ
 

●知っておきたい疾患の説明  ____________

 
口腔内には顎の異常、口唇裂、口蓋裂、歯の奇形など遺伝的な疾患、乳歯の残存により発生する発育期の疾患、歯周病、口内炎など炎症に伴う疾患、歯の破折など外傷による疾患、嚢胞を形成する疾患、腫瘍など色々な病気があります。口腔内みられる代表的な疾患のいくつかを紹介してみます。

乳歯の残存

乳歯晩期残存は乳歯と永久歯の交換の時期を過ぎても、乳歯が脱落せずに残存しているもので、永久歯の萌出方向への悪影響を与えることが多いのです。犬歯に限って見てみると永久歯の咬合異常を起こす確率は約75%程度です。治療は発見の時期や程度によって異なります。最も発生頻度の多い犬歯に限ってみますと、乳犬歯の残存を永久犬歯の萌出初期に発見したものでは残存乳犬歯の抜歯を行うだけでいいのですが、永久犬歯の萌出途中で発見し、乳歯を抜歯するだけでは不正咬合の発生が防げないような場合は、乳犬歯の抜歯と共に永久犬歯の外科的矯正(永久犬歯の歯根が未完成の時期に限る)を行い手術で歯の移動を行うことが必要です。永久犬歯の萠出が終わっている時期に発見した場合は、永久犬歯の歯冠短縮術(他の歯や軟部組織に接触しないように歯冠を切断し短くする処置を行うこと)や矯正(矯正装置を装着し時間をかけて、少しずつ歯を移動して咬合異常の治療をすること)などの方法で不正咬合に対する治療を行うことになります。

埋伏歯

埋伏歯とは歯肉の肥厚、歯の位置の異常、萌出スペースがたりない場合などに起こり、 萌出すべき歯が顎骨や歯肉下に埋もれた状態になっていることです。欠如歯との鑑別のためには、X線検査をおこなわなければなりません。見つけた時期により、歯肉の切除、開窓、埋伏歯の摘出、外科的矯正などによる治療法があります。埋伏歯の周囲に嚢胞を形成することもあります。

不正咬合

不正咬合は顎の長さの異常によりおこる場合、歯の位置の異常により起こる場合、乳歯 が残存して起こる場合など様々です。乳歯の晩期残存で永久歯の不正咬合を起こすことは多くみられます。したがって、乳歯と永久歯がスムーズに交換するかを観察しておくことは大切です。乳歯の残存による不正咬合の治療は、乳歯の残存の項目に書いたとおりです。 その他、過剰歯で不正咬合が起こる場合は抜歯が対象となります。顎の長さの異常により 外傷が起こるような場合は抜歯、外科的矯正、歯冠短縮術、矯正などの処置が必要になり ます。また、接触する歯を抜去することで咬合するスペースを確保でき、不正咬合による 外傷を回避できる症例では抜歯が有効な治療法の1つになることがあります。

矯正

矯正はエラスティックバンドやバネを使用して弱い力を持続的にかけて歯をゆっくり移 動する方法で、矯正力がかかると歯根の一部分を中心に圧迫側と牽引側に力がかかり、圧迫側には歯槽骨の吸収が、牽引側には骨形成が起こり、少しずつ歯を移動することができます。しかし、早く移動しすぎると色々な副作用が起こるので、矯正には数週間〜数カ月の時間がかかります。矯正中は定期的に検診を行わなければなりません。 この他ごく限られた期間ですが、外科的矯正を行うことができます。矯正しようとする歯の萌出途中で歯根の根尖が広く開いている時期にだけ行うことができます。通常は5〜7カ月齢の犬でX線検査を行い歯根の状態を確認して外科的矯正に適応かどうかを確認してから行います。歯の軸を移動する手術になります。  また、永久歯の萌出時期で乳歯がいつまでも残存しているために永久歯の萌出方向の 異常が起こりそうな場合は、抑制矯正として乳歯の抜歯を行い、不正咬合の発生を防ぐこ ともあります。

口蓋裂

口蓋裂は先天的な原因で発生する病気(口蓋の奇形)で、口蓋や口唇に穴があいたり、切れ込みができたりなどの異常が見られます。口唇裂があれば産まれてすぐに異常に気づきますが、口蓋裂ではミルクが鼻から出るとか、離乳期になって食事がとれないとか、成長が悪いことで発見されることが多いようです。いずれにしても生後すぐに口腔内の検査を行えば発見できます。手術が可能な症例では生後数カ月まで看護しながら成長させて、麻酔や手術に耐えられるようになってから行うのが一般的です。また、口蓋裂は先天的な病気なので複合的な先天的な疾患が他にないかどうか注意深く観察しなければなりません。

歯周病

歯周病は犬猫の口腔内で最も発生頻度の多い病気です。歯垢中の細菌が原因で、歯周組 織における細菌感染とこれを防御する宿主の免疫反応が複雑に絡み合った結果としておこるものです。歯と歯肉の間の歯肉溝周囲の炎症に始まり、初期には歯肉炎を起こし、歯肉の腫れや、さわると出血がみられますが、この時期では治療によりもとの状態に回復可能です。しかし、放置して更に炎症がひどくなり、歯肉溝の破壊が起こり歯周ポケットが形成されるようになると、炎症は更に深い部分へと進行し、歯槽骨の破壊も起こるようになります。この時期に発見した場合、それ以上の進行を食い止めることはできますが、破壊された歯周組織をもとの状態に戻すことはできません。したがって少しでも早く発見して治療することが大切です。歯石は歯周病の直接の原因ではありませんが、歯垢を付着しやすくするなど歯周病を助長する大きな因子になっています。歯垢や歯石の付着をさせないことが歯周病の予防となり、歯石の付着したものでは除去を行うことが歯周病の治療・再発予防に必要です。歯垢を除去したり、付着させないようにすることをプラークコントロールといい、最も効果的な方法は歯ブラシによる機械的なブラッシングです。その他色々な口腔内ケーアーグッズがありプラークコントロールに役立っています。

歯瘻(眼窩下膿瘍など)

歯瘻とは歯の根尖部(歯根の先端の部分)にできた病巣(物理的損傷、破折、う蝕、歯 周病が原因でおこる)から口腔粘膜や皮膚に形成された交通路のことをいいます。この交通路が顔面など口腔外の皮膚に形成された場合を外歯瘻といい、体の外から見て歯の病気が推定できる代表的な病気です。また、口腔内の粘膜や口蓋に開口部ができた場合を内歯瘻といいます。治療は原因となる歯の治療を行うわけですが、歯内療法により歯を保存できる場合と抜歯しなければならない場合とがあります。対症治療だけでは通常は完治しません。犬では上顎第4前臼歯の根尖病巣から顔面の眼の下あたりの皮膚に症状がでることが多く、歯が原因の病気と気づかないと症状は数カ月でも、数年でも続く場合もあります。 眼窩下瘻・膿瘍の主な症状は、犬では@顔面の腫れがみられる場合。A顔面の腫れと発赤 など皮膚の色の変化がみられる場合。B顔面の皮膚に傷ができて排膿が見られる場合など があります。いずれも痛みがでたり食欲が減退することが多くみられます。病巣から排膿 する場所が鼻腔になった場合はくしゃみや鼻汁などの症状が見られます。

口鼻瘻管

口鼻瘻管とは歯周病が重度になることにより、口腔と鼻腔が交通し、初期には鼻水、くしゃみが止まらない程度で始まりますが、やがて膿性(みどりっぽい)の鼻汁が出て止まらなくなり、呼吸困難になることもあります。診断は臨床症状、X線検査、歯周ポケットの深さなどから総合して行います。内科治療に少しは反応しますがすぐに再発するため、多くの場合が外科的な処置が必要となります。ほとんどの場合が上顎の犬歯や前臼歯の歯周病が原因で、深い歯周ポケットを形成し、ひどくなると歯周ポケットの中に食物残渣や分泌物を蓄積し、周囲には著しい炎症が起こっています。したがって抜歯をし、歯周ポケットを清掃し、フラップを形成し交通している穴を閉じる処置を行います。

歯の破折

歯の破折は色々な原因で起こりますが、治療は露髄していない(歯髄がのぞいていない )場合はコンポジットレジンなどの修復材を用いて歯冠修復を行い、露髄(歯髄がのぞいた場合)している場合は年齢や受傷後の時間の経過により、断髄法(露髄した部分の一部 歯髄を切断し、断面の歯髄保護を行い、残った歯髄は生きたまま残す修復法)や抜髄法(歯 髄を取り除き根管充填剤を充填して修復する方法)で修復します。 断髄法で行えるのは、状況により異なりますが一般に1〜2歳までの若い個体で、破折 後1〜2日以内で、しかも術後定期的な検査ができるという厳しい条件を満たす場合しかできません。それ以外の症例では抜髄法(歯髄を除去する方法)が選択されます。これらの修復が不可能な場合は抜歯が適応となります。歯の治療を行った場合はそれで終わりということでなく、治療した歯がある限り定期的な観察が必要です。

猫の慢性歯肉口内炎

猫の歯肉口内炎は難治性口内炎、リンパ球性プラズマ細胞性歯肉口内炎、口峡炎などと呼ばれ、最近では慢性潰瘍性歯周口内炎と表現されるようになりました。口峡部(口腔の最も奥のあたりの粘膜)の粘膜を中心に発赤、腫脹、潰瘍、増殖病変などが起こり、激しい痛みを伴います。そのため十分な食事がとれず次第に痩せてきます。原因は確定していませんが、口腔内細菌や細菌の出す毒に過剰に反応して起こるのではないかと推察されています。また、最近ではウィルスの関与も推察されています。口腔内の清掃や、抗生物質、抗炎症剤など様々な内科療法が試みられますが、完治しないことが多く、現在のところ、全臼歯抜歯(おくばを全て抜く)もしくは全顎抜歯(全ての歯を抜く)が最も効果的で完治を望める可能性のある治療法とされています。

歯頚部吸収病巣

歯頚部吸収病巣は猫に高頻度にみられる原因不明の歯科疾患です(犬にも見られますが、 発生頻度は猫に比べ極めて低いです)。4歳以上の猫の50〜70%での発生が見られるとの報告もあり、破歯細胞が歯質を吸収して起こるので破歯細胞性吸収病巣とも呼ばれています。はじめは歯頚部(歯冠と歯根の間のあたりで、ちょうど歯肉にかくれる部分)付近から吸収が起こり、次第に象牙質に進行し、歯根や歯冠部の象牙質に吸収が拡大します。歯肉下で病気が始まるので、発見が遅れる原因になっています。吸収された部分は歯冠部では肉芽組織で覆われ歯根部では顎骨に改造され、歯根が広範囲に吸収されると歯冠が脱落することになります。吸収が始まると痛みが生じますが、注意深く観察しないと見逃すことが多いです。治療は発見された時の症状によって異なり、初期のものでは欠損部の修復処置を行うこともありますが、進行したものでは抜歯や歯冠切除を行います。

口腔内腫瘍

犬や猫の口腔内の腫瘍は、良性のものではエプリス(歯肉腫)が多く、悪性のものは扁平上皮癌、線維肉腫、悪性黒色腫などが代表的なものです。肉眼所見では良性か悪性かは判断がつかないので、診断には肉眼所見、生検(針吸引、塗抹標本、組織検査)X線検査などを行い鑑別します。良性のもののほとんどは手術で完治しますが、悪性腫瘍の扁平上皮癌は下顎吻側部歯肉や口腔軟部組織から発生することが多く、猫では舌や舌根部に発生することが多く、浸潤性が高いので完治が難しいことがあります。線維肉腫は好発部位が上顎・下顎の歯肉、口蓋で遠隔転移(腫瘍ができたところから離れた遠くの場所にできること)は起こしにくいのですが、局所の浸潤は強く、再発しやすい性質を持ちます。また、悪性黒色腫は好発部位が頬粘膜、口唇、歯肉で浸潤性も転移性も高いです。これらの腫瘍に対し治療は外科療法、放射線療法、化学療法などがあり腫瘍の種類や発生場所・状態により治療法を決定します。いずれにしても早期発見・早期治療が術後の経過に大きく影響するため、日常での口腔内検査が重要です。

  このページのトップへ